脊椎疾患の治療
脊椎疾患による主な症状には、頚部痛・肩こり・上下肢の痛み・痺れ・麻痺・背部痛・腰痛・殿部痛・排尿障害などがあります。
これらの症状を和らげるために、いろいろな保存療法(手術をしない治療)を行います。薬(内服薬・外用薬・注射)を用いたり、患部の安静、保護の目的でカラーやコルセットを装着したり、温熱療法(電気・ホットパックなど)、運動療法、各種ブロック(神経根ブロック・椎間関節ブロック・仙腸関節ブロック・仙骨裂孔ブロックなど)を行います。
明らかな背骨の病気による症状の場合には、保存療法はあくまで対症療法で、根本的な治療ではありません。
保存療法で改善しない場合、手術の検討が必要です。
手術は、いつでもいいわけではなく、タイミングが非常に大切です。
適切な時期に手術をすれば良くなるものが、手術が遅れたために手術効果があまり得られないこともあります。
逆に、急いで手術しなくてもいいものもあります。
手術をする時期は、主治医とよく相談して、時期を逃さないようにしてください。
痛みや痺れがあるからといって、全て病気によるものとは限りません。
首や腰に負担のかかる仕事やスポーツなどをやって、首や腰が痛くなるのは当然で、ある程度の年齢になっていつまでも無理が利くわけではありません。
コルセットをつけないと出来ないような仕事を毎日続けていたのでは腰は持ちません。
人生80年を超える現代において、背骨の健康を守るために一番大切なことは、姿勢を正し、動作時に首や腰の負担を減らす工夫をし、適度な運動で、背骨を支持する筋力、体の柔軟性を維持することです。
変形した骨や軟骨、圧迫された神経は元に戻すことは出来ません。
少しでも変形を遅らせ、変形した背骨は進行を遅らせる努力が必要です。
薬で治すことはできないのです。
慢性の肩こりや腰痛は、明らかな背骨の異常がなくてもよく起きる症状です。
疲労、精神的な疲れやストレス、運動不足による筋力や体力の衰え、体の柔軟性の低下など自己管理がしっかりできれば防げるものも多々あります。
手術をした後でも、その後の状態を維持するためには適切な自己管理が重要です。
痛みや痺れの治療
脊椎疾患の多くは痛みや痺れを伴います。
痛みの原因が骨や関節にある場合には比較的治療しやすく、手術を回避する方法もいろいろあります。
しかし、神経が障害されることによる痛みは、あまり慢性化すると治療効果が得にくくなります。
ヘルニアや骨、靭帯などによる神経の圧迫が原因の痛みについては、原因を取り除く手術で改善させることができますが、痛みが慢性化すると、原因を取り除いても痛みが残ってしまう傾向にあります。
その場合、手や足に異常な感覚や麻痺を伴うことも多いです。
腰部脊柱管狭窄症による足底に餅がくっついたような感じとか、石ころの上を歩いているような感じというのは経過の長い患者さんでよく聞く訴えです。
このような患者さんでは、排尿障害を伴っていることもよくあります。
通常、急性期の痛みに対しては消炎鎮痛剤の内服や注射、外用剤、安静、コルセットなどの装着による安静、強い痛みに対しては神経ブロックなど行います。
通常の薬の効果が乏しい場合は、麻薬系の薬や神経の異常興奮を抑えるような薬を使うこともあります。
ある程度の治療で、薬の助けを借りる必要がなくなるような痛みについては様子を見ても構いませんが、痛み止めを飲み続けたり、強い痛みを我慢し続けることは体にとって大きなストレスになります。
原因が明らかな場合は、根本的な治療のため、手術も考慮する必要があります。
慢性の痛みや繰り返す痛みの場合、特に腰痛では必ずしもヘルニアなどの身体的病気からくるものばかりではありません。
運動不足や無理がたたっての筋肉痛や凝りなど、いわゆる体の手入れ不足によるものや
加齢現象や肉体的衰えに伴う痛み、疲れ、ストレスなど精神的、心理的要因からくる
痛み、女性では更年期症候群の一症状など多くの要因が考えられます。
MRIなどの検査で見つかった異常が直接の痛みの原因でないこともあり、注意が必要です。複数の要因が重なっていることもあり、画像の異常からだけで安易に診断するのは危険です。
痛みの原因や経過・職業・年齢・性別・生活背景・他の疾患などいろいろな情報から判断する
必要があります。
外来や入院時に患者さんからいろいろ質問して得られる情報は非常に重要です。
時々、面倒だとか、警察に尋問されているようだと不快に思う方もいらっしゃいますが、
正しい診断のため、ご協力よろしくお願い致します。
頚椎、胸椎疾患と腰椎疾患との違い
同じ脊椎の病気でも、病巣が頚椎や胸椎にあるのと腰椎にあるのでは大きな違いがあります。
一番の違いは、頚椎や胸椎では中を通っている神経が中枢神経(脊髄)であるのに対し、腰椎では末梢神経(馬尾)であるということです。
頭に近くなればなるほど神経の障害される範囲は広くなり、その影響も大きくなります。
神経は障害されると再生が難しい組織です。
中枢神経は機能が複雑で、回復には限界があります。
神経障害の後遺障害を少なくするには、神経があまり弱らないうちに治療することが重要です。
その意味で手術のタイミングが大切なのです。
医師はどういう時に腰椎手術を勧めるか?
- 下肢の神経麻痺が高度な時あるいは急激な進行が 認められる時.
- 膀胱直腸障害があれば出来るだけ早めに!
- 患者さんの仕事、あるいは日常生活動作などが繰り返す 激しい痛みにより高度に制限され、保存療法に抵抗性の時 など
脊椎手術の目的
脊椎疾患に対する手術の目的は、神経の除圧(圧迫を取り除く)・固定・矯正の3つです。
1.除圧(神経の圧迫を取り除く)
対象疾患:椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症・腫瘍など
2.固定
対象疾患:すべり症・分離症・分離すべり症・椎間板ヘルニア(再発)など不安定性を伴うも
の、骨折・脱臼などの外傷・腫瘍や感染・骨粗鬆症に伴う脊椎支持組織の破綻したものなど
3.矯正
対象疾患:側弯症・後弯症などの脊柱変形・外傷や感染後の変形治癒など
手術により、痛みや痺れ・麻痺・変形を改善します。
手術の対象になる症状は、生活や仕事に支障のある痛みや痺れ、神経障害に伴う運動、
知覚麻痺、生活や健康状態、生命に影響を及ぼすような変形です。
当院での除圧手術
当院では内視鏡手術は積極的に行っていません。
顕微鏡の使用、小皮切で行える特殊な開創器の使用により、低侵襲で安全な手術を行っています。
通常、腰椎のヘルニアの手術は3〜4cmの皮切で、手術時間は1時間以内です。
頚椎に対しては、後方から椎間孔拡大術・椎弓形成術(棘突起縦割式脊柱管拡大術)、腰椎では、ヘルニア摘出術・開窓術・椎弓切除術・椎弓形成術が主な手術で、ほとんどが1時間30分以内で終わる手術です。
当院での固定術
骨移植をして病巣部を固定し、動かなくしてしまう手術です。
移植する骨には、前方手術では腸骨前方や腓骨、後方手術では切除した椎弓、腸骨後方から採取した骨を用います。
手術によっては人工骨・ケージ・スペーサーを併用することもあります。
術式としては、前方から骨を移植する前方固定術、後方から骨を移植する後方侵入椎体間固定術(PLIF)・後側方固定術(PLF)・後方固定術(PF)があります。
1ヶ所の固定で1時間30分から2時間ほどかかる手術になります。
早期に生活、仕事に復帰し、確実な骨癒合を得るために、多くの場合、ネジやフックなど
金属による内固定を追加します。
現在使用している金属はほとんどがチタン製です。
原則として術後に感染・金属の緩み・アレルギー反応などによる刺激症状などの問題がなければ抜去はしません。
高齢になるほど単純なヘルニアや狭窄症よりも、変形や不安定性による障害が多くなるため、金属を用いた固定術の対象になる疾患が増える傾向にあります。
しかし、高齢者ほど、体や骨の条件が悪くなるため、合併症や骨粗鬆症に伴う金属の緩みに対する対策など、より手術に際して注意や工夫が必要です。
また、手術効果を維持するためには姿勢・生活指導・転倒防止・運動指導なども重要になります。
当院での入院期間
脊椎の手術では退院まで、除圧術では術後2〜3週間、固定術では術後6週間ほどです。
術前検査の期間として、疾患・年齢・合併症にもよりますが、1〜2週間ほど必要ですので、除圧術では1ヶ月ほど、固定術では2ヶ月ほどの入院期間となります。
退院後、通常の生活や仕事が可能になるまでは、更に1〜2ヶ月間必要です。
体の回復にはある程度時間が必要ですので、あせって無理をしてはいけません。
当然症状や仕事の内容によって、制限の必要な期間は異なってきます。
手術を受ける際には時間に余裕を持って治療に当たることが大切です。
手術はあくまで機械でたとえると、故障した箇所を修理するだけで、新品に取り替えるわけではありませんので、再度悪くならないよう、手術後にいろいろな注意も必要です。
自身で出来る予防法、少しでも長持ちできるよう、姿勢、運動などいろいろ気をつけることが重要です。
現在異常のないところはこれからも悪くならないよう、既に老化現象が始まっているようなところは、それ以上悪化していかないよう主治医や、リハビリスタッフなどと相談しながら、背骨の健康維持について学習しましょう。
私達は、悪いところを手術して治すだけではなく、手術が必要な背骨にならないように指導することも重要な仕事と考えています。
一緒に背骨の健康について考えていきましょう。
正しい診断、治療方針のため、患者さんへのお願い
脊椎疾患で診察、検査をし、治療方針を決めるために重要なことの1つに患者さんへの問診があります。
症状がいつ、どのようにして始まり、どのような経過をたどっているか。
痛みや痺れの部位・程度・時間帯や体位・動作での変化。
過去に同様の既往があるか、家族で同じような人がいるか、合併症はあるか、など情報は
少ないより多いほうが良いのです。
病気によってはほとんど問診だけで診断がついてしまうものもあります。
診断を確定するために、問診から得られた情報を基に診察をします。
その上で必要な検査を行います。
外来では診察時間短縮のためもあり、問診を基にまずレントゲン検査をしていただくことが多くなります。
受診の際には、問診が非常に大切なことを理解していただき、ご面倒でも我々の問いかけにお答えいただければ幸いです。
当院では他の病院からの紹介や他院へ通院中の患者さんが多く受診されます。
紹介状がある方はまだよいのですが、紹介状を持たずに受診される患者さんが多くいらっしゃいます。
紹介状や前医での検査結果の情報は非常に重要です。
病気によっては時間で変化したり、診断が変わるものもあります。
何度も同じ検査をして無駄になることもあります。
遠慮して紹介状をお願いするのをためらったり、良くならないからといって自己判断で病院を転々とすることが、診断や治療を遅らせる原因になることもあります。
病院を変えたいと思ったときは是非、担当医にまず相談し、紹介状を書いてもらうことをお勧めします。
その方が正しい診断、治療への近道です。
内科や他の疾患については関係がないと思われている方も時々いらっしゃいますが、内科など他科での治療している病気の経過や治療状況、過去に治療や手術をうけた病気の情報など、診断や治療の上で大変重要な情報になります。
最低限、服用中の薬がある場合は、その内容がわかるもの(薬手帳・処方薬の一覧表・
薬の実物など)をご持参ください。
糖尿病の方は、糖尿病手帳もお持ちいただくことをお勧めいたします。
当院で扱う主な脊椎疾患
椎間板ヘルニア
腰部脊柱管狭窄症・椎間孔狭窄症
腰椎すべり症・分離症・分離すべり症
腰椎不安定症
頚椎症(頚椎症性神経根症、頚髄症)
脊柱靭帯骨化症(後縦靭帯骨化症:OPLL・黄色靭帯骨化症:OLF、OYL)
脊柱変形(特発性側弯症・変性側弯症・後弯症)
環軸椎亜脱臼・Os odontoideum(先天性歯突起骨)・環軸椎回旋位固定
Chiari(キアリ)奇形、脊髄空洞症
脊髄腫瘍、馬尾腫瘍
化膿性脊椎炎
骨粗鬆症性椎体圧潰
関節リウマチに伴う脊椎障害
脊椎外傷(圧迫骨折・破裂骨折・脱臼骨折)
脊髄損傷
【椎間板ヘルニア】
ヘルニアがあるだけでは、手術の対象にはなりません。
ヘルニアにより、圧迫された神経が傷害され、麻痺を生じているもの、生活や仕事に支障をきたす痛みや痺れが持続する場合に手術を考慮します。
一般に、ヘルニアによる症状は、薬物療法や神経ブロックなどの保存療法により2〜3週間
ほどで軽快する場合が多く、8割以上は3ヶ月ほどで吸収され、自然治癒します。
麻痺が強いものや、治療してもなかなか痛みがよくならないヘルニアは、慢性化すると治りにくくなります。
手術をするタイミングが重要で、保存療法にこだわり過ぎると手術をしても良くならないということもあり、手術をする時期が重要です。
手術を必要とするヘルニアは、純粋にヘルニアだけが原因となっているものだけではなく、脊柱管狭窄や脊椎変形、すべり症などの不安定症といった他の因子が重なっている場合も
多く見られます。
単にヘルニアという診断だけではなく、ヘルニアの出た場所の神経や骨の状態や患者さんの年齢、職業などいろいろな要素を考慮した上での手術適応の判断が必要とされます。
時に、ヘルニアによる神経の圧迫が非常に強い場合には、尿閉(おしっこが出せなくなる)や急激な足の麻痺が生じることがあり、その場合には緊急の手術が必要になります。
手術が1日遅れただけで、麻痺が一生残ることもあり、ヘルニアを甘く見ると痛い目に会うこともありますので注意が必要です。
手術をした場合、当院では翌日から歩行してもらい、2〜3週間ほどで退院し、仕事にもよりますが、2〜3ヶ月ほどで職場復帰が目標です。
ヘルニアを取り除いても椎間板が新しく再生するわけではなく、椎間板は弱っていますので、あまり早い時期に無理すると再発の誘因になります。
1〜2割は再発し、中には再度手術が必要になる人もいますので、生活、仕事上の注意が必要です。
【脊柱管狭窄症】
脊柱管とは、背骨の真ん中の神経が通る通り道のことで、これが狭くなることで中の神経が圧迫され、神経の働きや血流が障害される病気が脊柱管狭窄症です。
生まれつき脊柱管が狭い場合もありますが、通常は加齢現象による背骨の変形、椎間板の
変性、靭帯の変性、肥厚による形態の変化が原因になります。
当然、若い人には稀で、高齢になるほど頻度が多くなります。
手術の対象になる人はほとんどが60歳以上です。
椎間板が磨り減ったり、骨が変形したり、靭帯が厚く硬くなったりして生じる病気なので、ある日突然悪くなるわけではなく、ゆっくり進行します。
自覚症状が現れたときには既にかなり進行している場合もあります。
脊柱管狭窄にヘルニアや外傷が加わると急激に症状が悪化することがありますが、多くの人は、数年間で、始めは軽い痺れだったのが、徐々にしびれの程度や範囲が広がり、歩行が
困難になったり、足が動かなくなったりするまで通院しない人も珍しくありません。
症状が軽いうちは、薬で症状を軽減させることができますが、基本的に狭くなった脊柱管が広がることはありませんので、神経の圧迫が強い場合や症状が進行している場合には、
手術を考慮する必要があります。
慢性化して、神経が弱ってしまってからでは手術の効果も低く、手術のタイミングが重要です。
特に頻尿(おしっこが近い)、残尿感などの膀胱直腸障害が生じている場合には、手術をしても後遺症が残る可能性が高く、そうなる前に手術をする必要があります。
同じ脊柱管狭窄症でも頚椎と腰椎では全く違う病気と考えるべきです。
頚椎の場合は脊髄が障害され、手も足も不自由となります。
腰椎との最大の違いは、通っている神経が、頚椎の場合は中枢神経(脊髄)で腰椎の場合は末梢神経(馬尾)だということです。
中枢神経は障害されると後遺症が残りやすく、頚椎疾患で脊髄が障害されている場合には、重症になってからでは手術の効果は得にくくなります。
平均寿命が80歳を超える現代では、いたずらに薬で様子を見ているうちに症状が重くなり、高齢になってしまうことが多々あります。
高齢になればなるほど合併症が多くなり、手術もしづらくなる傾向にあります。
手術が必要な状態なら、できればあまり高齢にならないうちに、手術して改善が見込まれるうちに手術をうけて欲しいと思います。
手術のタイミングを逃さないよう、主治医とよく相談してください。
【分離症、すべり症】
すべり症には、老化現象に伴う椎間板の変性や椎間関節の変性によって生じる変性すべり症と分離症を伴う分離すべり症があります。
変性すべり症は脊柱管狭窄症の原因になりやすく、分離すべり症では脊柱管狭窄は生じにくいですが、変性が進むと不安定性は変性すべり症よりも大きい傾向にあります。
いずれも進行すると固定術が必要になります。
腰椎分離症は、関節突起間部に亀裂が生じ、腰椎の前方部分と後方部分が離れていることから不安定性を生じ、痛みを起こす病気です。
何らかの先天的要因に、成長期の過度のスポーツなどの反復負荷による関節突起間部の
疲労骨折を生じることが原因と考えられています。
分離部がほとんど離れていないうちに診断できた場合は、コルセットの装着、運動の休止等の治療で治癒できますが、そのまま離れてしまい、偽関節の状態になるとほとんど自然治癒しません。
痛みが続く場合、手術する場合もありますが、手術が必要になる症例は少ないです。
発生頻度は約5%で、10〜20%が分離すべり症に移行します。
自然経過で20歳未満では、すべりの合併はほとんどありませんが、加齢とともに椎間板の
変性などにより、20〜50歳ですべりの頻度が増加し、50〜70歳ですべりが進行して
下肢症状を伴う症例が増加、70歳以降ですべりの進行が停止すると言われています。
【頚椎症】
頚椎の変性(簡単にいうと老化に伴う骨の変形や靭帯の肥厚など)に伴う痛みや痺れ、
麻痺を生じるもので、脊髄が障害されるのが頚椎症性脊髄症(頚髄症)、椎間孔狭窄などに伴って神経根が障害されるのが頚椎症性神経根症です。
神経根症の場合は片側の上肢、手の部分的な障害で済みますが、脊髄症の場合は、両手足に障害が及び、重症の場合は箸や書字、歩行に支障をきたすようになります。
軽い外傷で脊髄損傷を生じる危険性もあります。
神経根症は頚部痛や上肢痛を伴うことが多いのに対し、脊髄症では痛みを伴わず、ゆっくりと進行するものも多いため、重症になるまで本人が気が付かないこともあります。
手が使いづらくなったり、歩行が不安定になるため、脳の障害と勘違いし、脳外科や
神経内科などを先に受診する方も多くいらっしゃいます。
特に両手が痺れたり、力が入りづらいときにはこの病気を思い浮かべてください。
【脊柱靭帯骨化症】
脊柱の靭帯が骨化して厚くなり、脊髄を圧迫して神経障害をきたす病気で、後縦靭帯骨化症(OPLL)は昭和55年に、黄色靭帯骨化症(OLF)は平成21年に厚生労働省の特定疾患(難病)として指定を受けています。
難病とは、以下のような疾患です。
1)原因不明もしくは治療法が未確立であり、後遺症を残す恐れが少なくないような疾病
(ベーチェット病、重症筋無力症、再生不良性貧血、悪性関節リウマチなど)
2)経過が慢性に渡り、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するため家庭
の負担が重く、精神的にも負担の大きい疾病(小児癌、小児慢性腎炎、ネフローゼ、小児喘息、進行性ジストロフィー、腎不全で人工透析対象者など)
後縦靭帯骨化は、レントゲン写真を撮ると成人の約3%の人に認められ、決して珍しいものではありません。
男女比が2:1と男性に多く、ほとんどは40歳以上で発症します。
年齢とともに進行する傾向にあります。
ただし、骨化の大きさや範囲と症状は必ずしも一致せず、全く症状がない人もいます。
アジア地区で多く、西欧では少ないといわれています。
推定患者数は、2007年現在で2万6,000人ほどです。
原因はまだ明らかではありませんが、遺伝が関係しているということがわかってきています。
兄弟での発生率は30%くらいと報告されています。
全国各地に患者さんの会があり、津軽地区にも後縦靭帯骨化症患者の会「まるめろの会」があります。
当院院長の植山と越後谷医師がこの会の顧問として支援しています。
【環軸椎亜脱臼】
関節リウマチの合併症として比較的多い疾患で、リウマチ以外では外傷によるものがほとんどです。
第一頚椎(環椎)と第二頚椎(軸椎)を支える環椎横靭帯という太い靭帯が緩んだり、切れたりすることによって支えが弱くなり、2つの骨の関節が不安定になるため、環椎が前方に
ずれてくることが原因です。
頚部から後頭部の痛みやめまい、吐き気などの症状を生じます。
特にリウマチの場合は、だんだん骨が脆くなり、関節も壊れてくるので、一旦関節が不安定になると健常な骨に比べ、進行が速い傾向にあります。
脳幹部のすぐ下ということもあり、不安定性が強く、脊髄の圧迫が重度の場合には命に関わる疾患です。
【脊髄空洞症】
通常、脊髄の周囲に脳脊髄液という液体が存在しますが、何らかの原因で脊髄内に
脳脊髄液が入り込み、脊髄の中に水が溜まった状態になり、脊髄が圧迫されて障害される
病気です。
先天性の無症状ものもあります。
原因として、Chiari(キアリ)奇形、腫瘍に伴うもの、外傷や炎症後の癒着性くも膜炎などがあります。
手術治療として、後頭下減圧術、空洞−くも膜下腔(S-S)シャント、空洞−腹腔(S-P)
シャント、くも膜下腔−くも膜下腔バイパス術などがあります。
【脊柱変形】
治療対象となる脊柱変形で多いのは、小学生から中学生の成長期に生じる特発性側弯症と高齢者の脊椎の変性に伴って生じる変性側弯症、特に骨粗鬆症に伴って生じる脊柱後弯症があります。
変性側弯症に後弯症が加わった変性後側弯症の症例も増えています。
特発性側弯症では成長期の間で40度未満の変形であれば、装具による矯正治療が主体になりますが、進行性で、40度を超える変形の場合、手術治療を行います。
一般には中学から高校の成長がある程度停止した頃に手術を行うことが多いですが、成長期に手術を受けず、成人になって変形が進行して手術が必要になる場合もあります。手術には金属を用いた矯正、固定術が必要です。
変性側弯症は60歳以降になると増加します。
背骨の支持組織である骨、軟骨、靭帯、筋肉などが弱ることにより進行します。
変形しているだけで手術が必要になることはほとんどありませんが、神経を障害したり、
不安定性を伴い、生活や仕事に支障をきたす痛みを生じたり、呼吸や消化器官に影響を
及ぼすほどの変形には手術治療が必要です。
元気な高齢者ほど脊柱の変形は支障をきたしますので、最近は活発な高齢者が多くなり、
手術を受ける患者さんが増えています。
【化膿性脊椎炎】
最近では、結核による脊椎炎(いわゆるカリエス)は少なくなり、一般細菌によるものがほとんどです。
健常な人よりは、糖尿病などの基礎疾患があったり、悪性腫瘍、ステロイドなどの薬剤の
影響などによる免疫力の低下に伴って生じる傾向にあります。
尿路感染など、他の臓器の感染が波及して生じることもあります。
早期に適切な治療を受けないと、脊椎が破壊され、重度の変形や不安定性を生じることもあります。
膿などによる神経の圧迫で麻痺を生じることもあります。
発熱を伴う腰痛は要注意です。
【骨粗鬆症に伴う障害に対する手術】
高齢化に伴い、骨粗鬆症の患者さんが増加しています。
脊椎で問題になるのは軽微な外傷などで生じる圧迫骨折とそれに伴う変形や麻痺です。
通常、脊椎の圧迫骨折は1〜2週間の安静で、痛みが楽になり、コルセットを2〜3ヶ月間装着してほとんど支障なく治癒する場合が多いのですが、骨粗鬆症に伴って生じる圧迫骨折では、椎体が完全に潰れてしまったり、骨癒合が遅れ、椎体が壊死してしまったり、不安定性を伴う痛みが続いたり、潰れた骨が神経を圧迫し、時間がたってから神経障害が生じたり、骨折に伴う変形(特に後弯変形)による障害が生じたりといろいろな問題を起こし、手術が必要になる症例が増えています。代表的な手術として
1.椎体形成術(Kyphoplasty、Vertebroplasty)
2.短縮骨切り術
があります。
椎体形成術は、潰れた椎体内に人工骨やセメントを充填して椎体内の欠損部を補ったり、
椎体の形を復元する方法です。
椎体形成術単独で手術できるものはまだよいのですが、潰れ方がひどかったり、骨が神経を圧迫したり、潰れて後弯状態で固まってしまったりした場合には骨切り術が必要になります。
金属を用いた補強が必要ですが、若い人の骨と異なり、骨の強度が弱いため、高齢者の手術では広範囲の固定を行うことが多く、侵襲の大きな手術になります。
どうしても骨粗鬆症の患者さんは高齢の方が多いため、高血圧、糖尿病、心臓疾患など手術に支障がある合併症を持っている割合が高いため、手術にある程度の制限が必要になるのですが、高齢の方ほど単純な手術で解決できない患者さんの頻度が多くなる傾向にあり、
手術方法を決める時には頭を悩ませます。
そうならないためにも、特に50歳以降の女性では、骨粗鬆症の検査を受け、骨粗鬆症の診断
を受けた場合には適切な治療を受ける必要があります。